基礎知識

【基礎知識】位置ベクトルについて

ここでは、わかったようでわからない、わからないようでわかった気になりがちな、位置ベクトルについて解説していきます。

位置ベクトルは平たく言うと、「基準点を自由に決めて、基準点から見た終点の位置のみでベクトルを定義しよう」ということになるのですが、深く考えると難しいものです。

位置ベクトルについては様々な説明方法があるのですが、私なりの方法で説明してみたいと思います。

位置ベクトルについて

下図のような \overrightarrow{AB} を考えます。

位置ベクトルとは

A と点 B しか図に含まれていないので、 \overrightarrow{AB} というベクトルは \overrightarrow{AB} 以外に表しようがありません。

ここで下図のように点 O を追加してみます。

位置ベクトルについて

このとき、 ベクトルの差を用いて \overrightarrow{AB}

    \begin{eqnarray*} \overrightarrow{AB} &=& \overrightarrow{OB} - \overrightarrow{OA} \end{eqnarray*}

と表すことができます。

マスマスターの思考回路

O という点が追加されたことにより、 点 O を利用して \overrightarrow{AB}\overrightarrow{AB} 以外の方法で表すことができました。

ここで、上図の点 O を別の位置に動かした状況を考えると下図のようになります。

位置ベクトルについて

O の位置が移動しましたが、ベクトルの差を用いると \overrightarrow{AB} は先ほどと同じく

    \begin{eqnarray*} \overrightarrow{AB} &=& \overrightarrow{OB} - \overrightarrow{OA} \end{eqnarray*}

となります。

マスマスターの思考回路

O の位置が移動しても \overrightarrow{AB}\overrightarrow{OB} - \overrightarrow{OA} であることに変わりありませんね?

ということは、点 O はどこにあっても良いわけです。

ここで改めて最初の図に戻りましょう。

位置ベクトルとは

\overrightarrow{AB}\overrightarrow{AB} 以外でどう表せば良いでしょうか?答えは

    \begin{eqnarray*} \overrightarrow{AB} &=& \overrightarrow{OB} - \overrightarrow{OA} \end{eqnarray*}

となります。

マスマスターの思考回路

この図では点 O が存在してないのに \overrightarrow{OB} - \overrightarrow{OA} と表すことはまずいのでは?と思われるかと思います。

確かにそれは正しいです。

しかし、図に示した範囲内に点 O が見えていないだけであって、はるかに遠くに点 O が存在すると仮定してしまえば \overrightarrow{OB} - \overrightarrow{OA} と表しても問題ありませんよね?

つまり、この状況では \overrightarrow{OB} - \overrightarrow{OA} と表すことはある種正しく、ある種正しくないのです。

それではどうすれば良いのでしょうか?

O が存在していないにも関わらず \overrightarrow{AB}

    \begin{eqnarray*} \overrightarrow{AB} &=& \overrightarrow{OB} - \overrightarrow{OA} \end{eqnarray*}

と表せることとなってしまいましたが、実際には点 O は存在していないので \overrightarrow{OB}\overrightarrow{OA} を定義することはできません。

そこで、 O を使用しないように \overrightarrow{OB}, \overrightarrow{OA} を次のように定義します。

    \begin{eqnarray*} \overrightarrow{OB} &=& \overrightarrow{b} \\\\ \overrightarrow{OA} &=& \overrightarrow{a} \\\\ \end{eqnarray*}

上の式の \overrightarrow{b}\overrightarrow{a} が位置ベクトルです。

位置ベクトルは点の名前に併記して表現され、A(\overrightarrow{a}) などと表します。

このとき、 \overrightarrow{AB}

    \begin{eqnarray*} \overrightarrow{AB} &=& \overrightarrow{b} - \overrightarrow{a} \end{eqnarray*}

と表すことができます。

マスマスターの思考回路

位置ベクトルを用いると、「終点を小文字にしたベクトル – 始点を小文字にしたベクトル」として表現できるということになります。

O は見えていても見えていなくてもどこにあっても良いので、わざわざ O を使用しなくてもいいであろうという考え方に位置ベクトルは基づいています。

これによりベクトルをアルファベット一文字で簡易的に表すことができるようになります。

\overrightarrow{OA} &=& \overrightarrow{a} という式は点 O の位置は不問であり、点 O から見た点A の位置のみで決定されるということを表しており、これが位置ベクトルという名称の由来となります。

\overrightarrow{OA} &=& \overrightarrow{a} という位置ベクトルを考えた場合、 \overrightarrow{a} は点 O を基準とした位置ベクトルであると言います。

複数のベクトルの位置ベクトルを考える場合、 基準となる点は統一しておかなければならないことに注意してください。

例えば、先に挙げた

    \begin{eqnarray*} \overrightarrow{OB} &=& \overrightarrow{b} \\\\ \overrightarrow{OA} &=& \overrightarrow{a} \\\\ \end{eqnarray*}

は、基準点を O とした場合の位置ベクトルになりますが、基準点はどこにとってもいいので点 A を基準とすることも可能です。

下図のように点 A を基準とした位置ベクトル、つまり基準点 O を点 A に一致させた場合を考えてみましょう。

位置ベクトルとは

上の図では点 A の位置ベクトルが \overrightarrow{0} となっていますが、これは基準点 O と点 Aの位置が一致しているためです。このとき、

    \begin{eqnarray*} \overrightarrow{AB} &=& \overrightarrow{b} \\\\ \overrightarrow{AA} &=& \overrightarrow{0} \\\\ \end{eqnarray*}

と表すことができます。

マスマスターの思考回路

上の式ではベクトルの始点が A になっていますが、位置ベクトルの基準を既存の点と一致させてしまう場合、 O という点を考える必要がないためです。

\overrightarrow{AA} は始点(この場合の始点は基準点に一致しています) A から終点 A へのベクトルですから大きさを持ちません。よって零ベクトルになります。
\overrightarrow{AB} &=& \overrightarrow{b} は基準点 A から点 B へのベクトルですので、基準点から見た点 B の位置だけでベクトルが定義できます。よって、 点 O を基準とした場合と変わらず \overrightarrow{b} と考えることができます。

また、一般に \overrightarrow{AB} = \overrightarrow{b} - \overrightarrow{a} が成立しますが、基準点 O を点 A に一致させることによって、 \overrightarrow{AB} = \overrightarrow{b} と、より簡単にベクトルを表現することができます。

基準点を既存の点に一致させることにより、問題によっては計算量を減らすことが可能になります。

位置ベクトルの説明の終わりに

いかがでしたか?

位置ベクトルというものを考える利点は次のようなものになります。

  • ベクトルをより簡単に表現すること
  • 計算を楽に行えるようにすること

つまり、位置ベクトルはベクトルを扱ううえで、より簡単に問題を処理するための道具であると言えるでしょう。

今後、位置ベクトルを使う機会が多くなりますので、しっかり理解しておきましょう。

【基礎知識】平面上のベクトルのまとめ

プロフィール

-このサイトの記事を書いている人-

某国立大工学部卒のwebエンジニアです。
学生時代に塾講師として勤務していた際、生徒さんから「解説を聞けば理解できるけど、なぜその解き方を思いつくのかがわからない」という声を多くいただきました。
授業という限られた時間の中ではこの声に応えることは難しく、ある程度の理解度までに留めつつ、繰り返しの復習で覚えてもらうという方法を採らざるを得ないこともありました。
本ブログでは「数学の問題を解くための思考回路」に重点を置いています。
それらを通じて自らの力で問題を解決する力が身につくお手伝いができれば幸いです。

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